英国の演劇教育界で中心的な組織のNational Dramaと、ポーランドの大学、ギリシア・アイルランド・スペインの演劇教育団体とが「Play It Out Loud」プロジェクトというのを実施し、先日成果発表会がありました。Zoomで行われたのですが、世界各国から67名が参加しました。膨大な資料ではありますが、先進的な演劇教育の素晴らしさを理解してもらうためにも、皆さんにご紹介したいと思います。
シャイな6~12歳の子どもたちを対象にした実験的企画
「Play It Out Loud」プロジェクトは、シャイな子どもたちに、ドラマレッスンがどのような影響を与えることが出来るかを実験したワークショップになります。また、演劇教育家も、難民や社会的に障害

を持った子、学習に障害のある子などをどのように導くかのヒントを得るための企画でもあります。
全部で20のレッスンが用意され、あらかじめ5日間の教師向けワークショップ(イギリス、ポーランド、ギリシア、スペイン、アイルランドより参加)で、内容をシミュレーションしたようです。
5名の教師が、実際にこども向けワークショップを担当し、22名の教師はアシスタントや評価を担当しました。
子どもたちは6~12歳の22名の子たちで、5カ国にまたがっています。おそらく五カ所で4~5名を相手にやったのではないでしょうか。各担当教師は共通20レッスンから12レッスンを選択して週1回ペースで実施したようです。
20のドラマレッスンプラン
ドラマレッスンのプランは私たちセミナー参加者たちにシェアされました。GLODEAの1級講座でも、シートにワークショッププランを記入するタスクがありますが、これらは目的や注意点などがよく書かれていますので皆さんも参考にしてください。

セミナー内でも一つのレッスンプランを紹介するパートがありましたが、ぼくが思ったのは、非常に演劇教育が成熟しているということです。National Dramaが参考資料としてシェアしてくれたドラマ手法のリストは実に39種類。非常にたくさんのバリエーション豊かな手法を知っていて、それらを組み合わせてレッスンプランを作っているということが驚きです。
20のレッスンは、3つのタイプにカテゴライズできると述べていて、①Games and Theatre Skills(ゲームや演劇的スキル) ②Personal and Social development activities(個人的・社会的な成長になるもの) ③Role play and experiential ‘Drama for learning’(ロールプレイと経験的な’学習のためのドラマ’)としています。
徹底した評価・振り返り
様々な評価や振り返りのシートが目を惹きました。
これは、先生向けのレッスン後の評価シートです。

次に、先生たちが各子どもたちに対して、事前に把握するための評価シートです。どれぐらい内気か、数値で示せるようにもしています。ぼくも、事前と事後で評価シートを使いますが、わかりやすい行動項目で内気さを客観的に診断できるのはよいなと思います。

そして、レッスン1,6,12の経過を見られるシートです。こちらも、わかりやすい判断項目で評価できるようになっています。文章として記入するメモ欄もたくさんありますが、ここでは割愛します。

そして、全てのレッスンが終わり、22名の評価教師が演劇教育プログラムが有効だったかを振り返ります。こちらも四段階評価で、真ん中を作らないようにしています。

数値で示された演劇教育の効果
最後の評価シートをまとめたグラフがあります。「非常に有効(3点)」「かなり有効(2点)」「あまり有効でない(1点)」「全く有効でない(0点)」として、平均点を出しています。

やはり、表現力や創造性、協力に関する項目で、有効性が実感されているようです。どれもが平均2点以上なので、全てにおいて有効性を実感しているということになります。
まとめ
子どもが実際にやっている写真や動画がなく、その点では物足りなかったのですが、多くの資料をシェアしてくれてヨーロッパの演劇教育の先進的な実態を垣間見ることが出来ました。
ぼくが感じたことですが、一つは、プログラムがとても工夫されていて、多彩なドラマの手法が総動員されているということです。さすが演劇教育の先進国だなと思いました。日本では、演劇教育の手法自体をほとんど知らない人が多く、どこかで経験したことがあるシアターゲームをただやるだけというレベルが多いのではないでしょうか。「子どもたちが楽しく遊んでいたら成功」、そんな風に短絡的に思い込んではいないでしょうか?
また、プログラムの作成にしても、綿密に目的と効果が吟味され、綺麗にドキュメントにされています。これもGLODEAの講師養成講座で何度も言及することですが、日本の場合はそこまで教育的見地から吟味することが出来ていません。また、教育系の人は堅くて柔軟性がなく、演劇系の人は曖昧で直観的すぎる傾向があります。
評価シートの作り方もとても参考になりました。演劇の成果はとても見えにくいものですが、内気な子どもたちという観点から、客観的にわかりやすい判断項目を作って評価していましたし、たくさんの観察ノートを記していました。
日本の演劇教育の遙か先をいく、イギリスはじめヨーロッパの皆さん。このセミナーもアメリカやインドなど五カ国以外の参加者も多数いました。しかし、アジアはぼくと香港の人が一人いたくらいでした。もっと、日本の演劇教育家は視野を広げて、スキルを磨いてほしいと思います。自己の狭い経験則だけで、「楽しいだけの演劇教育」「目的と効果を無視した演劇教育」「大人の押しつけの演劇教育」をしないでほしいと思います。
ぼくもたくさん学び、多くを皆さんに還元していきたいと思っています。