月1~2回のペースで演劇教育プログラムを行っている姫路の就労移行支援事業所「むれ咲き」。
普段は全10回のプログラムを1回90分でやっていますが、この前、特別版として全2回の感情に関するワークショップを行いました。名付けて「感情と仲良くなり、コントロールするためのドラマセラピーワーク」。この内容をご紹介しましょう。
感情のガイダンススケール
感情のガイダンススケールを紹介して、普段よくどの状態にいるか、どこからどこまでの範囲によくいるかチェックしました。
よくこの感情でいる | たまにこの感情になる | 感情のエリア | |
愛 | |||
喜び | |||
感謝 | |||
自由 | |||
興奮 | |||
熱中・没頭 | |||
期待・希望 | |||
満足 | |||
退屈 | |||
我慢 | |||
イライラ | |||
落胆 | |||
疑い | |||
心配 | |||
不安 | |||
嫉妬 | |||
憎しみ | |||
恐怖 | |||
無価値感 | |||
罪の意識 | |||
絶望 |
ポイントとしては、自分が普段どの感情の状態にいることが多いのか知ってもらうことにあります。そして、たまになってしまう感情はどれか。そうした自分の感情を客観的に捉えてほしいのです。
その上で、感情と親しくなるために、シアターゲーム「カウント5」を使って、感情表現のエクササイズ。感情は恐いものでもなければ、コントロール不能のものでもなく、ある程度は感情というものを自在に扱えるということを学びます。
他人から言われたら嫌な言葉、うれしい言葉
また、こんなことをシートに記入してもらいました。
■他人から言われたら嫌な言葉
(わたしはこんな言葉を言われると、嫌な気持ちになる)
■他人から言われたらうれしい言葉
(わたしはこんな言葉を言われると、うれしい気持ちになる)
そして、実際に、ペアになって言われたら嫌な言葉をいってもらいます。
どんな感じになるでしょうか? これはあくまで演技であり、ワークですが、それでもやっぱり嫌でしょうか? なぜでしょうか?
合わせて、感情というものが「反応」として現れるものだということ。そして、その反応は自身の経験のデータから来ているということを知ってもらいます。
ある人にとってものすごく反応してしまう言葉も、他の人からすれば全然大したことなかったりします。自分の中に蓄積している自分というデータが反応を作っている、という事実は理解するのは難しいかもしれませんが、頭の片隅にでも入れておいてほしいものです。
次に、嬉しい言葉もいってもらいます。どんな反応が起こるでしょうか? また褒めるほうはどんな気持ちになるでしょうか?
最後に全員に対して、褒め言葉を投げかけ、褒め言葉のシャワーを受けてみましょう。
プレイバックシアター
二日目は、「こんなシチュエーションの時に感情がネガティブになってしまう どんな時ですか?」という質問に対して、書いてもらった内容を踏まえつつ、実際のシチュエーションを寸劇として演じながら、結果を変えていこうということをしました。プレイバックシアター、フォーラムシアターのやり方を応用しています。
①風呂掃除をするつもりだったけど、疲れてゲームをしているときに母親から風呂掃除をしていないことを叱られ、「やるつもりだったのに!」というジレンマを抱える。
②昔の嫌なことを寝る前に思い出してしまい、なかなか寝付けない。
③いわなくてもいいのに、つい余計なこと(不平不満・嫌味)をいってしまい、場の空気が悪くなる。
この3つのケースをやってみました。最後のケースは職員さんに入ってもらいながら。
演技として楽しみながら、こうしたシチュエーションのときの解決策をみんなで考えてやってみました。
仏教大学准教授の江本純子さんも、参加しながらワークショップを見学されていました。江本さんはプレイバックシアターの経験者でもあり、障害者の労働・生活をめぐる課題に対して演劇のアプローチに関心をもっている方です。
まとめ
今回のプログラムがどの程度利用者さんの助けになったかわかりませんが、「感情をコントロール出来ない」「そのことによって就労に問題が生じてしまう」という課題の解決に少しでも結びついてくれたらと思います。
ワーク内でも様々なメッセージを発しました。感情は主観的なものですが、客観化するということがキーになるので、演劇というツールのなかで主観と客観の双方からワークを体験してもらうことはとても斬新であったろうと思います。
また、変に感情を抑制したり、偽ったり隠そうとするのではなく、自然に解放する習慣をつけるということは大事なことです。溜めることで爆発してしまいます。演劇は感情表現するものなので、感情を外に出し、感情を表現するということを実践してもらいました。これも重要なことだと考えます。
「むれ咲き」は本格的な演劇教育プログラムを導入している極めて画期的な就労移行支援事業所です。おそらく全国に他にありません。ちょっとした演劇はあるかもしれませんが、演劇教育の専門家が行っているのはないでしょう。ある調べでは、就労移行支援事業所は全国に3300箇所あるといいます。演劇は極めて変化を起こすパワーを持つプログラムなだけに、もっと他の事業所でも広がるといいですね。全10回プログラムもそうですし、GLODEAには成功事例があるので、他の演劇教育家の派遣にも繋がっていくといいなと期待しています。ご興味・関心のある事業所はお声がけください。
【参考】
福祉新聞掲載記事