MoE マントル・オブ・ジ・エキスパート

0
3258
MOE Mantle of the expert

イギリスの著名な演劇教育家にドロシー・ヘスコート(Dorothy Heathcote)(1926-2011)がいます。彼女が創り出した演劇教育「マントル・オブ・ジ・エキスパート(Mantle of the Expert)」をご紹介します。マントル・オブ・ジ・エキスパート(略してMoE)は、学校のカリキュラムに準じた内容をドラマを使いながら探求的に学ぶという、まさにアクティブラーニングの手法がとられていて、非常に参考になるでしょう。

ドロシー・ヘスコート

ドロシー・ヒースコートドロシー・ヘスコート(Dorothy Heathcote)は、1926年に西ウォークシャーで生まれました。若いときに演劇学校に通うものの、講師から、身体の大きさのせいで俳優には向いていないということをいわれ、その後教師を目指します。教師の訓練を受けながら、様々な学校で多くの児童と接するなか、演劇の応用を考えていました。

1951年、まだ教師としての経験がないものの、教師の指導力を改善する役割で仕事をもらいました。彼女の指導法は、普通と少し違っていて、だんだんと彼女の評価は広がっていきました。彼女は、当時の演劇の専門家とも違ったアプローチをしていました。

1964年に、ニューキャッスル大学で遂にフルタイムで指導するようになりました。1966年には映画で紹介され、そこから有名になり、地方や海外へと指導や講義に行くようになりました。

1980年代になって「マントル・オブ・ジ・エキスパート Mantle of the Expert」という名称が使われるようになりましたが、元々これは演劇の経験が乏しい教師たちのために、演劇的な学習法が教えられるように導くものでした。

1986年にニューキャッスル大学を退職したあとも、指導し続け、2011年に演劇教育における貢献でMBEを叙勲されました。

マントル・オブ・ジ・エキスパート

マントル・オブ・ジ・エキスパートとは

MoEは学校のカリキュラムを踏まえながらも、演劇的なアプローチを使って「探求」と「実践」をしていく点で特徴的です。MoEは、小学校、中学校、特殊学級、少年院、精神病院などで実践されました。

選ばれたテーマに対して、リサーチやディスカッションを行うだけでなく、実際にテーマを取り巻く人々を演じながら(歴史であれば、王や民衆など)、客観性と主観性を備えた多角的なアプローチがされます。

エキスパート(専門家)という言葉がついているように、子どもたちはよく調べますが、本当に専門家になるわけではありません。フィクションのなかでの専門家です。教師と生徒同士のチームを構成し、自発的・能動的に探求します。したがって、そこには責任感や好奇心や協力があります。

リアルな現実と違い、教室は安全な場です。演劇という空想の中で真似事をする行為を通して、現実をリアルに感じます。

MoEの具体例

アクティブラーニングとして、よりイメージできるように、具体例を挙げたいと思います。

①例えば、ペリーの黒船来航を学習するとしたら、まずは日本の鎖国政策や、キリスト教の布教などを調べます。しかし、これだと、知識を詰め込んだだけです。

②なぜ、日本は鎖国をするのか? なぜ、外国は日本と貿易したいと思うのか? そういった点を調べながらディスカッションします。地図を作ったり、人間関係図を作ったりします。

③そして、演劇化します。衣裳や小道具もつけてやってみます。
1.ペリーがやってきて、幕府に開国するようお願いする。
2.井伊直弼が、日米修好通商条約を結びます。
3.条約の不平等さに吉田松陰らが立ち上がりますが、処刑されます。

④ペリー側、井伊直弼側、吉田松陰側の3者の立場で感じたことなどをディスカッションしてみます。

⑤現代において似たような例がないか探してみます。

という具合になるでしょう。

MoEは魅力的なアクティブラーニング

日本からすれば、このような演劇教育の手法は魅力的なアクティブラーニングとして是非とも導入したいと感じるのではないでしょうか?
学校のカリキュラムと連動できるということ、学校の教師がアクティブラーニングに困っているということからすると、演劇教育家が学校の課題を解決できる、よい手段です。

現状、こうしたアクティブラーニングの手法に慣れていない学校教師が単独でMoEを取り入れるのは難しいかもしれません(イギリスでも時間をかけて教師のためのトレーニングが行われています)が、演劇教育家と連携しながらであれば、きっと実践していけるでしょう。

 

参考:Mantle of the Expert