ドラマセラピーの構造 Dramatherapy

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Drama as Therapy

ドラマセラピー(Dramatherapy)は、教育というより治療や問題解決を目的として、演劇の仕組みを応用しています。クライアントが進んでプラスの方向に変化をもたらせるようにアシストします。

ドラマセラピーの基本構造はこちらです。

  • Warm Up ウォームアップ
  • Focusing フォーカシング
  • Main Activity メインアクティビティ
  • Closure and de-roling 締めと役の解除
  • Completion 完了

時間にしてウォームアップとフォーカシングまでが3分の1、メインアクティビティが3分の1、締めと役の解除と完了までが3分の1くらいが目安です。多くのドラマセラピーがこの五段階を経ます。

 

ウォームアップ

ウォームアップはドラマセラピーのワークに自然に入れる手助けとして行われます。様々なエクササイズが行われますが、俳優たちがやるような即興的なものと内容は似ています。比較的容易なアイスブレイク的なワークがいいでしょう。

タイプとしては、身体を使うもの、小道具を使うもの、想像力を使うもの、感情を使うもの、複数人やグループで行うものがあります。

目的は、参加者たちが心理的な抵抗を弱め、その後のアクティビティにスムーズに繋げていくためにあります。

 

フォーカシング

フォーカシング(焦点化)では、より直接的に主題やワークの中身に取り組みます。ドラマセラピーの中では、「ニーズを見極める」セッションになります。クライアントが、自己の深い問題に向かう準備が出来るように整えます。

ここでは、例えば、特定のロールプレイのための役割を決めたり、フォーカスを絞った即興をつくってみたり、ウォームアップで使った小道具を使ってもう少し込み入ったワークを行ったりします。この段階では、セラピストはあらかじめ用意したことをやるのではなく、自然発生的にワークを見つけて行います。

 

メインアクティビティ

多くのドラマセラピーのセッション内で、クライアントたちが強く巻き込まれているときがあります。
例えばこのような活動が行われます。これらの実演(enactment)で、カタルシス(浄化)は必ずしも必要ではありません。

①トラウマ的な実生活のイベントを即興で演じる
②夢の象徴を、なにかしら表現する
③小道具を使って遊んでみて、無意識の素材が現れるのを見る
④問題のある関係性を説明するために、彫刻を作る
⑤自己の引き裂かれた部分を表現するために仮面を作ったり、用いたりする
⑥困難を生んだ個人的なイベントを反映させている空想話を実演する
⑦問題のテーマを開拓するために、環境を膨らませてみる
⑧重要な他人との関係性の問題に対処するために、身体を使って動く

 

締めと役の解除

演劇的なワークを終わらせる段階です。演劇的な場を退場したり、演じ手と観客の境目がなくなります。この締めの段階では、もし特定のシーンを演じていたり、即興をしていたなら、「役の解除」が含まれています。つまり、演技をやめ、素に戻るということです。小道具を使っていたなら、小道具との関わりを終わらせます。

このとき、演劇の世界のように突然演じるのをやめて、拍手をしたり、「おつかれさまでした」というのではなく、ゆっくりと解除していかなくてはいけません。でないと、リスクを伴います。
よく行われるのは、自然と演技から離れるよう、違うワークに移行することや、観客として観ていた人が入ってきて、混ざり合うことです。
前者では、例えば演技の場に置いてある椅子に座ってもらい、次に観客の場に置いてある椅子に座ってもらうというような移行の仕方が例としてあります。そして、演じていてどんな感想を持っていたかという質問をしたり、その人本人に関する質問をしたりします。

演劇的なアクティビティを吸収し、昇華できるように促すことが大切なのです。クライアントは実演した内容と本当にあった出来事との間で、心痛んでいることが多く、セラピストは慎重に、「役の解除」のプロセスをつくる必要があるのです。

 

完了

「完了」には二つの要素があります。「統合」と「離脱」です。「統合」では、メインアクティビティの振り返りを行って、気持ちを共有したりします。なにか印象に残った場面はあったか、実演中の関わりや反応は、演じてみてどんな気分になったか、などです。

そして無理なく離脱します。セッションの完了はわかりやすくあるべきで、いつも形式的に同じようなことを終えたり、歌を歌って終わったり、手法は様々です。

 

ということで、ドラマセラピーの基本的な流れをご紹介しました。ドラマセラピストは、セミナー講師のように用意したプログラムに沿って行うのではなく、その場で観察しながら、即興的に場を作っていかなければいけません。毎回、どうなるかわからない状態で行っているのです。かなりの経験と観察眼が必要な職業です。

<参考文献>
Phil Jones,1996, Drama as Therapy; Theatre as Living (Routledge)