ロサンゼルス演劇教育リポート「The Actor’s Gang」

0
2692
アメリカのロサンゼルスの演劇教育

別役慎司は一ヶ月間、ロサンゼルスに行ってきました。アメリカの演劇教育について少しでも知りたいと、いくつかのめぼしい場所にメールをしたのですが、残念ながらコネもなく、ほとんどは空振りでした。しかし、2カ所、実際に話を聞くことが出来ましたので、紹介したいと思います。

まずは、「The Actor’s Gang」。
The Actor's Gang Culver City

 

 

ここは、「ショーシャンクの空に」で有名なティム・ロビンスが芸術監督を務める劇場で、カルバーシティという近年開きつつある街にあります。
普通のお芝居もやっているのですが、ここでは大人向け・こども向けのワークショップをやっていますし、中学生や高校生を対象に、学校での演劇教育活動、無料の放課後プログラムもやっています。教育部門担当のアダムさんにお話を伺いました。(残念ながらビデオインタビューはNGでした)
ロサンゼルスの演劇教育The Actor’s Gangの教育法は個性的で、コメディア・デラルテからヒントを得た4つの感情のワークやパントマイム、声のワークなどを通して、自分の感情を表現することや自分の意見や感情を他者に伝えることを中心テーマにしているようです。そうして、自己開放や自信の形成に繋げています。シアターゲームももちろん取り入れています。

アメリカの演劇教育事情を探る無料でのプログラムを提供しているのですが、昨年は15の小中高校で2492名の子どもたちが参加したそうです。

アフタースクールプログラムでは、「Immersion in the Classroom」と「Ensemble in the Classroom」いうものを展開し、生徒たちが自分たちの感情を充分に嘘偽りなく表現できる場をつくり、おのおののストーリーを、独自性を見つけつつ、集団の中で創造的な声によって伝えるよう導いていると記しています。

年間で30週間にわたり無料でプログラムを届けています。演劇の発表を行い、友だちや家族に見てもらう機会もあります。

プロの俳優が教えるしかも、プロの俳優が教えに行くわけです。
ちなみにぼくはみんなで「Can’t pay? Don’t Pay!」というお芝居を観に行ったときに、こうした教育をやっているということを知って、受付の人に頼んで、アダムさんに話を繋いでもらいました。非常に忙しい中、ありがたいことです。

アメリカの演劇教育家はほとんどが俳優です。特別に教育学などを学んだわけでもなく、演劇への愛が教育プログラムを作っているというのが驚きでした。

 

アメリカのドラマ教育をひもとく

ぼくらは、とにかく教育効果を実証することや、演劇教育のプログラム伝授や講師育成に力を入れざるをえないのですが、アメリカはいちいちそんな実証もいらないし、「だって楽しいじゃん」「だって役に立つじゃん」のノリでみんなやるんですよね。キチキチとした細かいことに囚われないので、プログラムもアートや音楽を取り入れたり柔軟で創造性に溢れています。

アクターズギャングのアダムさんフィードバックシートのような形で、気づいたことは学校などに送っているそうですが、アセスメントはそんなに力を入れていないようです。そういう話をしたときも、「そういうのいる? 目の前の子どもたちに最大限コミットすればいいんじゃないの?」とはいいませんが、そんな微妙な反応をしていました。

無料のプログラムに関しては、ロサンゼルス郡から資金が出ているようです。学校に提案書を送り、採用となればプログラムを提供します。学校のカリキュラムとの協力や連動も意識しているそうです。

 

「アクターズギャング」では、ほかに「Prison Project」というものも取り組んでいます。
Prison Projectを受けた参加者の規律違反は89%減少し、再犯率は10.6%に抑えられているそうです。演劇教育の力でここまでできているのはすごい!

演劇ならではの身体と感情を伴うワークによって、参加者たちは安全な場で、自分たちの感情(怒りや恐怖や無力感)を出せるわけです。そこから、共感や愛情へと移行していき、社会復帰への準備へと繋げていきます。
コメディア・デラルテはマスクを使いますが、マスクを使うことで、感情の扉を開くんですね。素晴らしいプログラムです。「ショーシャンク」で囚人役を演じたティム・ロビンスが、囚人のための更正プログラムをやっているというのはとても興味深いです。「45 seconds of laughter」というドキュメンタリー映画を2019年に発表しているので、観てみたいです。

もっともっと深く探っていきたいですね。この劇場を知ることが出来、そしてお話を聞くことが出来て本当によかったです。そして、演劇教育に強い関心をもつ、カリフォルニア州立大学演劇科卒の関口栞さん、LA留学中の女優の柳沢ななさんと出会えたことも幸運でした。一緒に行けて、また色んな話ができてよかったです。

アクターズギャング