6月~7月と、せたがやサポートステーションで、代表別役が演劇教育ワークショップを実施してきました。その振り返りをしたいと思います。
1.実施概要
インプロワークショップ
6/22 第1回 テーマ「緊張の氷を解かす。雑談から会話を盛り上げよう」5名
6/29 第2回 テーマ「緊張に負けない。エネルギーと集中力を高める」4名
7/13 第3回 テーマ「想像力と感情を使って、人に伝える」7名+1名見学
7/20 第4回 テーマ「即興で話す力。準備しなくても言葉が出る」8名
合計8時間
舞台創造体験ワークショップ
7/3 1日目 作品選びとストーリー作り 会議の進め方 3名
7/4 2日目 衣裳と小道具製作 4名
7/6 3日目 劇の練習と発表 4名
合計8時間
という形で、行いました。今回は、インプロワークショップ4回と、舞台創造体験ワークショップを組み合わせたプログラムを届けました。対象は、サポステの集中プログラム受講者4名でしたが、7月のインプロワークショップからは、集中プログラム以外の人たちも参加し、非常に盛り上がりました。
2.どんなことをやったか
インプロワークショップのほうは、シアターゲームとインプロの組み合わせで、即興的なワークにたくさんチャレンジしてもらいました。
ボールを使ったコミュニケーションのワークや、倒れてくる身体を支える信頼のゲームなど、基本的かつ仕事上でも重要なことをやりました。
体験し、そして気づきを得る、という形なので、小難しいビジネス理論を教えたり、人間力と関係ないことをやることはありません。
インプロという言葉自体は、意味が広いですが、設定だけを与えて、打ち合わせののち、6~7分で即興で演じてもらうということもやりました。
人生もビジネスも即興です。臨機応変にコミュニケーションをしていかないといけないわけです。受講者たちは、かなりハードルの高さを感じていたようですが、積極的にチャレンジしていて、「意外にできる」という実感を得ていました。
そうですね。彼らは「できない」「自信がない」と勘違いして、自己を形成しているところがあります。社会と比較して、自分を調整することは誰もがやりますが、個性的だったり、左脳より右脳のタイプだったりして、うまく調整ができなかったのです。そのうちに、自信を喪失したり、できないとレッテルを貼ったりしているのです。
こうした演劇のワークショップでは、個性や持っている資質を外に出させてあげます。正解なんてありません。無限の創造があるだけです。失敗を恐れず、自分を出すことの爽快さを知るようになります。
野毛青少年交流センターで合宿中に行った「舞台創造体験ワークショップ」は、別役が新入社員研修としてやっているプログラムを実施しました。
みんなで、作品の選定・キャスティングの会議から、小道具・衣裳作り、稽古、演劇の発表までを行います。その過程で、PDCAや報連相、5Sなどを体験的に学びます。彼らが選んだのは「セロ弾きのゴーシュ」。4名という少人数でしたが、本番は12分の熱演! 素晴らしかったです。
3.評価シートによる受講者の成長分析
GLODEAでは、15項目の達成目標と30のヒューマンスキルを挙げています。今回、Beforeの評価シートでは、15項目の現状での自信・満足度を聞き、Afterではその15項目で、自信・満足度が上がったかどうかを聞きました。
Beforeを回答してくれた集中プログラムの4名の平均値ですが、5段階評価(数字が高いほど、「自信がある・満足している」で、数字が低いほど「自信がない・満足していない」の意になります。3が「普通・どちらでもない」です。)で下のようになりました。
BEFORE
項目 | 平均 |
【問題を解決できる】多角的に考え、問題を解決させていくことができる。 | 2.5 |
【理解し合える】他者の話をよく聞き、共感し、理解することができる。 | 2.5 |
【協力し合える】自発的に行動し、他者と協力することができる。 | 2.25 |
【良好な関係性を築ける】社交的にふるまい、他者と良い人間関係を結べる。 | 2.75 |
【集団をまとめられる】リーダーシップを発揮し集団のために臨機応変に対処できる。 | 2.25 |
【チャレンジできる】決めたことに集中して取り組み、挑戦することができる。 | 2.5 |
【誠実で人を尊重できる】他者の視点に立って誠実な心で接することができる。 | 3.25 |
【やり遂げられる】忍耐強く、意志力を発揮して最後まで取り組むことができる。 | 2.5 |
【オープンになれる】好奇心を持ち、豊かな感受性で周囲の世界を感じられる。 | 3.25 |
【ポジティブに捉えられる】物事に対してポジティブに考えられ、自信をもっている。 | 2.25 |
【対話・会話をできる】1対1や複数人相手でも自然に会話することができる。 | 1.75 |
【発信・説明できる】声をしっかりと発して、わかりやすく説明することができる。 | 1.5 |
【アイディアを出せる】想像力を膨らませ、柔軟に考え、新しいアイディアを出せる。 | 2.25 |
【身体で表現できる】表情を豊かに出したり、ジェスチャーを使って伝えられる。 | 1.5 |
【感情を表現できる】感情を外に出し、エネルギッシュに行動できる。 | 1.25 |
「人と関わる力」の上5つ、「心と個性」の中5つに関しては、個人差がかなりあり、平均して普通の3より低いという結果でした。「人に伝える力」の下5つは、全体的に苦手としており、1点代が続出していたので、サポステに通う人たちはどうも「人に伝える力」が弱いということが見て取れます。
最終日の評価シートおよびアンケートに記入してくれた人は8名。うち1名は演劇部で活動していたそうで、ほとんど「既に自信・満足があった」に回答していたし、参加日数や参加意欲も受講者によって違うので一概にいえませんが、15項目のなかでも自信度と満足度アップに寄与できた項目を数値で挙げてみます。
既に自信・満足があった/あまり変化はなかった……0p
少し自信・満足になった……1p
かなり自信・満足になった……2p で計算してみました。
AFTER
項目 | ポイント |
【問題を解決できる】多角的に考え、問題を解決させていくことができる。 | 5 |
【理解し合える】他者の話をよく聞き、共感し、理解することができる。 | 5 |
【協力し合える】自発的に行動し、他者と協力することができる。 | 6 |
【良好な関係性を築ける】社交的にふるまい、他者と良い人間関係を結べる。 | 7 |
【集団をまとめられる】リーダーシップを発揮し集団のために臨機応変に対処できる。 | 2 |
【チャレンジできる】決めたことに集中して取り組み、挑戦することができる。 | 8 |
【誠実で人を尊重できる】他者の視点に立って誠実な心で接することができる。 | 5 |
【やり遂げられる】忍耐強く、意志力を発揮して最後まで取り組むことができる。 | 7 |
【オープンになれる】好奇心を持ち、豊かな感受性で周囲の世界を感じられる。 | 5 |
【ポジティブに捉えられる】物事に対してポジティブに考えられ、自信をもっている。 | 3 |
【対話・会話をできる】1対1や複数人相手でも自然に会話することができる。 | 5 |
【発信・説明できる】声をしっかりと発して、わかりやすく説明することができる。 | 6 |
【アイディアを出せる】想像力を膨らませ、柔軟に考え、新しいアイディアを出せる。 | 7 |
【身体で表現できる】表情を豊かに出したり、ジェスチャーを使って伝えられる。 | 6 |
【感情を表現できる】感情を外に出し、エネルギッシュに行動できる。 | 6 |
全ての項目に対して、誰かは変化があったことがわかります。また、リーダーシップとポジティブ思考以外は、まんべんなく自信や満足度向上に繋がった受講者が多かったですね。最も高かったのは「チャレンジできる」で、次に高かったのが「良好な関係性を築ける」と「やり遂げられる」と「アイディアを出せる」でした。
プログラムをたくさん受けている人と、2回だけ受けた人との間で、ポイントの違いはなく、どれぐらい積極的に楽しんで参加出来たかが、変化に繋がっていたと分析しています。
4.アンケート
最終日はアンケートも行いました。
演劇ワークショップの満足度
大変満足=5名 まぁまぁ満足=2名 普通=1名 やや不満足=0名 不満足=0名
※様子を見ていた感触からすると、まだ心理的抵抗が強くがんばって受講していた人が「まぁまぁ満足」と「普通」につけており、無理していた分満足度が低かったといえます。
演劇ワークショップのお薦め度(サポートステーションに来ている人や同じような悩みの人に薦めたいと思うか)
はい=6名 どちらでもない=2名 いいえ=0名
自由記述式ではこんな回答がありました。
印象に残っていること
「他の人のエピソードを聞いていくうちに楽しくなり、自分もここにいる人たちを楽しませたいと思った。前回の体験で褒めて頂けたことで、今回はより自信が持てた」
「考えすぎず、思いついたことを言動に表すことが練習になった。思ったより即興で言葉が出てくる自分に気づいて良い意味で驚いた」
「小道具を使用してでっちあげのエピソードを語ったり、ある場所とペアとの人間関係を発表するのがとてもよかった」
「ほぼアドリブだったのは楽しかったし、他の人の考えなどがわかりよかった」
「合宿の演劇を通して人前で何かをする度胸が少しついたかもしれない」
「一人でやらなきゃいけないことと、他者をサポートする(助けてもらう)ことの両方ができて良かったです。ほうれんそうとか、仕事に大切なことを自然に学べました」
感想・メッセージ
「一回だけですが自分からエキストラに参加出来て、とても嬉しくて、楽しかったです」
「恥ずかしいのもあった、楽しかった。これからの人生の為になるすごい良い経験になった。参加してとても良かったと思う」
「今までにないタイプのワークなのでコミュ力を磨くのに良いと思う」
「とても充実したセミナーでした。またの機会に参加したいと思いました」
「サポステのプログラムの中でも一番ハードルが高くキツかったが、なんとか乗り切れた。自信がついた」
「感情を押し殺している人、他人と喋るのが苦手な人ほど参加してほしいです。得るものが大きい。なにが成功でなにが正解かは”ない”ので、失敗はありません。どんどん自分を発見してほしいと思う」
5.サポステで指導してみて
最初は受講者がどれだけ積極的に参加してくれるか、前向きに取り組んでくれるか心配なところがありました。一部の受講者は、最初まったく目を合わせられなかったり、声が聞き取れないくらい小さかったりしましたが、ボールのゲームなどをやりだすとすぐに積極的になってきたので安心しました。
コミュニケーションの基本から、チームワークやスピーチなどにもチャレンジしてもらいましたが、特に彼らの想像力とアイディアは素晴らしく、一般の社会人よりも豊かだったといえます。右脳的であるぶん、左脳的な社会にうまくなじめず、持ち前の右脳的なスキルすらも影を潜めてしまっているのでしょう。自信のなさは時折みられましたが、できないと途中で投げてしまった人はいなかったし、チャレンジできていたので、もっと自信を持ってほしいですね。お互いにカバーし合う空気もあり、インプロの打ち合わせもしっかりとできていました。
回数自体が少ないので、抵抗感が強い人たちが楽しいとハマってくるまでには時間がもう少しかかると思われます。人数も、3~4人より8人くらいいたほうが盛り上がるし、他の人に釣られて積極的になっていけるでしょう。積極的に発言できる人が1~2名いるだけで、場の雰囲気はかなり違います。
インプロはレベル高いものも多かったのですが、アドリブで演じるだけでなく、キャラクターも工夫していたし、常にアイディアを出しながら積極的にコミュニケーションを取る姿勢が見えました。
舞台創造体験ワークショップでは、少人数ではありましたが、新入社員研修で行っている内容をほぼそのまま実行できただけでなく、最後の発表は10分を超える素晴らしいものになりました。仕事において必要なことがたくさん詰まっているので、このような集中的なワークショップも非常に価値があるものだと実感しました。
6.今後について
サポステでの就労支援としての演劇教育は、今回のようにインプロワークショップと舞台創造体験ワークショップを組み合わせる形が有効だと思います。インプロワークショップは月1~2回程度実施し、1人4~6回くらい受けてほしいと思います。そして、舞台創造体験ワークショップは年に1~2回実施し、必ず1回は受けるという形にすれば、半年から1年間で完結するプログラムになります。
わたしたちの課題としては、このプログラムをすぐに講師として提供できるのが別役しかいないということです。講師養成講座が開講してマスター講師が生まれたとしても、2つのプログラムを扱うのはかなりハードルが高いといえます。今回サポステのニーズとマッチしていることがわかり、世田谷サポステでは今後改めて定期的にプログラムを行ってほしいと要請を受けていますが、サポステ自体は全国に175カ所もありますし、ニーズに応えながら広げていくのが課題です。