第5回GLODEA Salon終了しました。サロン自体の報告というより、サロンの内容をシェアしたほうが有益だと思いますので、配付資料をご紹介します。
「STEAM教育に演劇を組み入れる!科目と連動させる具体的な実践例と先生が指導するコツ」
イントロダクション
- STEM教育とは?
STEM教育とはScience(科学)、Technology(技術)、Engineering(工学)、Mathematics(数学)を重視した教育方針。STEM教育は科学と数学を土台として展開する科学技術人材育成を行おうというアメリカの戦略があり、社会に出る前の子どもたちが、将来そうした舞台でリーダーとして活躍することを目的とした教育です。
- STEAM教育とは?
STEM教育に、 Art(芸術)を加えて提唱された教育手法。左脳的なSTEM領域に右脳的でアクティブラーニングの要素を持つArt芸術を加えて、より次世代の課題に対応できる人材を育成する。
STEM vs STEAM
STEM(理数系)の特長……客観的・論理的・分析的・再現性あり
A(芸術)の特長……主観的・直感的・感覚的・再現性なし
芸術は、情報詰め込み型の教育のマイナス面を補うことができる。
アメリカでは2006年の全米学術会議でSTEM領域の教育が落ち込んでいることを問題に取り上げ、そこから国を上げて取り組むことになった。しかし、全米学力調査において成果は見えなかった。そこで、STEAM教育の重要性が近年高まっている。
科目としての芸術
音楽やダンス、演劇などの芸術が、有効性が高いことは様々な研究で示されている。また、シュタイナー教育やレッジョ・エミリア、モンテッソーリなど、芸術を取り入れた教育は非常に人気であり、高いお金を出しても習わせたい人が世界中にいる。
しかし、不景気になったり、政党が変わると、予算を削減されるのはまず芸術である。
アメリカではダンスと演劇の授業が2010年までに大きく削られている。演劇は1999-2000の調査で20%の小学校で正規のカリキュラムに取り入れられていたが2001-2010年には4%となっている。(しかし、英語など他の科目と連動されては30~46%であまり変動せず)
芸術を学ぶ意義、取り入れる意義
・芸術は、人間性の発展、脳内の認知的・情緒的・精神運動的な経路を増長させるのに重要な役割を演じている。
・学校は、できる限り若年時に、子どもを芸術に触れさせ、芸術を基本的なカリキュラムの領域と見なす義務がある。
・芸術を学ぶことは個人の一生を通して質の高い人間的経験を提供する。
・芸術は情緒を呼び起こし、そして、人は情緒が学修を増長し、長く持続させることを知っている。
(「AI時代を生きる子どものためのSTEAM教育」デビッド・スーザ/トム・ピレッキ著)
21世紀型スキルとの共通点も指摘されている。
脳科学
脳科学的にも、芸術は脳のニューロン構築を助けることがわかっている。芸術的訓練が子どもの集中力を高め、認知を改善することや、情緒に関与し、情緒が認知的成長と長期記憶の増長に繋がることを指摘している。
PSHE
※イギリスではPSHEを基準にカリキュラムを考えることが多い。
Personal, Social, Health and Economic (PSHE) Education 個人・社会・健康・経済の観点から、子どもたちのよりよい生き方(well-being)がよりよい学びになるという教育指針
STEAM教育を体験してみよう!
- 小学校の算数 3~5年
テーマ……面積と、角度を理解する
用意するもの……紐、テープ、分度器、メジャー
①三角形の王国、四角形の王国、五角形の王国に分かれて、紐を使って床に領地を作ってもらいます。紐は部屋の広さによるが、同じ長さで渡しておきます。王国の国民たちで協力して、図形をつくってもらいます。
②分度器を使って、角度を測ってみましょう。合計するといくつになるか?(内角の和)
三角形……180度 四角形……360度 五角形……540度
③三角形の王国が、四角形と五角形の王国を占領してしまいました。四角形と五角形の王国のなかに三角形をつくらなければなりません。紐を足して作ってみて下さい。
四角形の王国……三角形2つ 五角形の王国……三角形3つ
もし八角形の王国が三角形の王国に占領されたなら、三角形はいくつ? 内角の和はいくつ?
内角の和は三角形の数×180度ともいえる
八角形は三角形が6つ 6×180=1080度
④各王国の面積を測ってみましょう。どのように測ったらいいでしょうか?
⑤三角形の王国の占領はなくなり、みんなで一つの王国をつくろうということになりました。綺麗な六角形を作るためにはどうすればいいでしょうか?
紐は3本なので、正六角形の角度を使って作る。120度。
- 小学校の理科 6年生
テーマ……食物連鎖を理解する
用意するもの……動物のイラストや写真
①イラストを見て、一人一つの動物を真似してみましょう。
実際に一緒にいたら、どうなるでしょうか? 動いてみましょう。
②では、食物連鎖の順番に並べてみましょう。
③食物連鎖の上位の動物は、どのように捕食しているのでしょうか? 優位な点や、武器を考えてみましょう。また、捕食されないためにどんな特徴をもっているでしょうか?
④実際に映像を観てみましょう。
⑤映像を参考に、捕食していく流れを演じてみましょう。
⑥人間の身体との違いを考えてみましょう。
⑦【宿題】好きな動物を一つ選んで、食べている物や量、どんな生活をしているか、など研究してみましょう。
その他にはコラムで紹介したこちらをご参照下さい。
まとめと議題
気づいた点
①演劇を組み込むことが容易な内容と、そうでない内容がある。知識で済まされてしまうもの、複雑な計算式などは困難である。
②なぜその学習が必要なのか、本質的な部分が理解できないと、記憶のためのSTEAM教育になりがちで、本質的な部分を理解した上で考案すれば、探究心をくすぐりやすい。
③授業は記憶に残り、学修の定着率は高いと思われるが、時間がかかる。
④高度な演技力は求められないので、学校の教師でもSTEAM授業は可能である。しかし、単独で考案するにはハードルが高い。
⑤同一の単元の中だけで考案しようとせず、他の単元と組み合わせたり、学習指導要領にない内容を組み合わせるのもよい。
STEAM教育を進めるには
学校教師と芸術の専門家がタッグを組んで、授業を考案していく。
そして、授業をマニュアル化し、全国の教師がそれを実践できるようにする。
これからの「良い先生」
①ただ、生徒を追い込み、問題を解かせ、成績を上げさせる先生
②教え方がうまくて、解き方を教えてあげる先生
③生徒の学ぶモチベーションと考える力を引き出し、実世界のなかで活用するヒントを与えてあげる先生。思考力や理解力、好奇心、感受性などの人間力も高めていける先生。
これからの良い先生は③になっていくと思います。
アクティブラーニング、ゲーミフィケーションとしての課題
生徒たちを能動的にさせる、主体的に取り組ませることは簡単ではありません。STEAM教育としての授業が構造化されていても、ファシリテーション能力が足りないと授業はうまくいきません。
考え方として、
①教えるより発見させる
②覚えさせるより興味を持たせる
③情報や知識より思考や感じ方
④点数を取らせるより実世界で応用させる
⑤表面的ではなく本質的
⑥平面的ではなく立体的
であることが求められます。これは、教師の価値観を大きく変えることにもなります。そのためSTEAM教育主導やアクティブラーニング主導では、「教師の落ちこぼれ化」も懸念されます。
ということで、STEAM教育に演劇を組み込む形での研究発表を行いました。参加者からも、こういった教育の実現に対する熱望が感じられました。STEAM教育は
かなり可能性が広がりますね。演劇に限らず、芸術分野で専門家が集い、たくさんのアクティブラーニングなSTEAM事例をつくって、それをシェアし、先生たちが独自に選択して取り入れるようになれたらいいなと思います。
GLODEAとしてもSTEAM教育の演劇版開発に力を注いでいきたいと思っていますが、それには教育機関さんとの連携が必要になります。是非お声がけ下さい。