代表の別役です。8月5日&6日と行われましたイギリスの演劇教育家、ブリン・ジョーンズさんとジェン・カミリンさんの特別ワークショップの報告をしたいと思います。
GLODEAとしては、海外のプロの演劇教育家を招いて行うワークショップは目玉企画です。
まずは、新しい著書が発売されたばかりのブリン・ジョーンズ(Bryn Jones)さんの回から。
Dramatherapyというタイトルのように、彼の現在の専門はドラマセラピーですが、かつては有名なTIE劇団に在籍し、日本での公演も実現させたほどです。そんなシアター・イン・エデュケーションの専門家から直接6時間も学べるなんて、実に素晴らしい!
英国伝統のシアター・イン・エデュケーション(TIE)を知る&体験する!
とはいえ、拍子抜けだったのは、あまり申し込みが入らなかったということ。まだ立ち上がったばかりのGLODEAは人との繋がりが圧倒的に少ないということもありますが、1歩も2歩も先取りしている内容のため、日本の演劇教育関係者や学校教育者にとってまだピンと来なかったかもしれません。
改めて、1から開拓して、広めていく大変さを身にしみて感じます。
前半はシアター・イン・エデュケーションの歴史や特徴、ブリンさんが若き頃に手がけた作品解説など盛りだくさんで、質問もバンバンあり、レクチャー1時間の予定だったのが、午前まるまる使ってしまいました。
けれど、本当に役に立つレクチャーでした。ぼくとしては20年前に日大芸術学部の演劇教育の授業で学んで「なんて素晴らしいんだ!」と感動した経緯があり、今回改めてたっぷりと学べて嬉しかったです。
このスライドの写真のように、シアター・イン・エデュケーションでは、観客と俳優の境目が曖昧で、直接的にふれあうこともしばしばです。
それだけにTIE劇団はプロフェッショナルな技術が必要ですし、ブリンさんの話では、学校からの事前リサーチや子どもたちとの事前ワークショップ、作品創りや稽古(RehearsingというよりDevisingな)などありとあらゆる側面からアプローチするため、とっても大変だそうです。
既成の教育ではダメだ! 科目の勉強ばかりではダメだ。もっと子どもたちにとって役に立つことを届けよう。一方的に教えるのではなく、考えさせよう!
と、かつてのイギリスの演劇人たちは奮い立って、シアター・イン・エデュケーション活動を行いました。
そんな素晴らしい教育を脅かしたのは政治でした。政党や政策が変わる度に助成金も減り、現在では心の教育よりも、目で見て数字で見てわかる教育に傾倒し、どんどんシアター・イン・エデュケーション劇団は減ってしまったそうです。
後半は、みんなでシアター・イン・エデュケーション創り! これはぼくの要望でもあったのですが、単なる理論や知識を学ぶだけでなく、しっかりと体験してほしい。ということで、実際にTIEを創ることに。
みんなでTIE劇団名を考え、テーマやキャッチフレーズ、対象年齢や、物語や登場人物などを決めて、稽古をした後、発表しました。
みんなで考えたテーマは「自分で考え判断する」ということ。みんなが行くから塾に通っている子と、塾なん通わずに遊びに熱中している子、親に言われて塾に行くことになったけど本当はピアノをしたい子。
途中、観客席に問いかけたりするシーンも創りながら、6分ぐらいの作品を発表しました。
こうやって、ワークショップで実体験として学べたのは非常に大きかったと思います。それだけに、これを学び逃してしまった人がたくさんいるのは口惜しいし、映像教材化できないかと考えています。
演劇教育を担うファシリテーター養成! ドラマワークショップの指導術を学ぶ!
次にドラマファシリテーターのジェン・カミリン(Jen Camillin)さんによる2日目のワークショップについてご紹介します。
演劇教育においてより大切なのは、知識や手法ではなくファシリテーション能力です。演劇は頭と体を使うワークで構成されているので、参加者の心を開かせ、自発的・創造的にさせていかなくてはいけません。
ジェンさんは、フリーの演劇ファシリテーターですが、助成金などを受けて就業支援のためのファシリテーター養成も行っています。
これはビックリですよね。教育を受けられなかった人や失業者が、ドラマファシリテーターの訓練を受けて、ドラマファシリテーターとして職を得るんです。それがお金を稼げる職業であるということも驚きですが、就労支援としても職業訓練を受けるんですよ。
日本とイギリスは演劇教育の歴史が段違いに違いますが、ここまで違うかと感じます。
ところどころ、簡単なシアターゲームが紹介され、受講者で体験しながら、ドラマファシリテーターとして大切なことを学んでいきます。
実際に心を閉ざした人たちや強いフラストレーションを抱えている人とも演劇的なワークを辛抱強く行っていくことがあるそうです。
演劇が教育や治療など幅広く応用されていることを羨ましくも感じながら、置かれている現実は過酷だなと思います。
少しずつ、信頼され、少しずつ心の壁を融解させ、演劇がその人の生きる力を回復させていく。レジリエンスの力にも気づかされました。
後半には、ぼくからの要望でもあったのですが、参加者に実際にワークショップをファシリテートしてもらうという機会がありました。
そこでは、参加者に秘密の設定(「無口である」「話しすぎる」「すごくシャイ」「講師に依存気味」)などが与えられ、少し難しい相手の前で、シアターゲームの導入などをしてもらいました。
こういうプラクティカルなトレーニングってとても大事です。GLODEAでも講師養成講座を開いていくのですが、上級講座は、実践トレーニングをかなりやってもらう予定です。
ジェンの就労支援ドラマファシリテーター養成講座でも、かなり長期間手厚いケアで教えていますが、ぼくたちもしっかりと教えるつもりです。
2日間12時間、一人で通訳をがんばった秋江さん。休み時間には子守も。
ブリンさんとジェンさん、本当に素晴らしいワークショップをありがとうございました!
ブリンさんとジェンさんには、これからもGLODEAのサポート専門家として関わっていただきます。二人のインタビューや、今回のワークショップの映像も、近いうちに公開したいと思っています(多忙です!ボランティアスタッフ募集中!)。