vol.9 非認知能力を伸ばすキーツールに演劇教育はなりうるのか

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vol.9 非認知能力を伸ばすキーツールに演劇教育はなりうるのか

非認知能力(Non Cognitive Skills)という言葉をご存じでしょうか? この言葉は、ノーベル経済学賞を受賞したジェームズ・ヘックマン教授が提唱したことで、日本でも広まっています。またOECDでは社会情動的スキル(Social and Emotional Skills)という名称を使っており、社会情動的学習(Social and Emotional Learning)を奨励しています。まさに、演劇教育が向上を得意とするスキルだといえます。

非認知能力とは人間力のこと

・認知能力……学力テストやIQテストなど測ることのできるもの
・非認知能力……テストでは測れないコミュニケーション力や創造性などのスキル

15の人間力この非認知的能力というのは、いってみれば人間力ということです。実はぼくは10年くらい前からビジネストレーニングの領域で、演劇がもたらすことのできるスキルアップとして人間力を挙げています。

ぼくの考えでいえば、人間が本来もっているスキルであり、教育の中で教わらないために多くの人が錆びつかせてしまっているスキルのことです。ビジネス向けでは、こんな表を作ったことがあります。

非認知的スキルビジネスで身につけるビジネススキルや、専門職のスキルに栄養を与えるのが人間力であると。人間力があってこそ、ビジネススキルがより高いレベルで発揮できるということです。ビジネス研修の領域でも、目に見える明確な事柄が中心に置かれていますが、それではいけないといってきました。

このピラミッドと同じように、認知的スキルは、非認知的スキルによって栄養を与えられるように成長するものだと考えています。

こうしたスキルアップの性質を重要視し、ぼくはインプロやシアターゲームを行ってきたのです。

 

GLODEAが考える、演劇教育でもたらすことのできる非認知スキル・社会情動的スキルとは

GLODEAは演劇教育でもたらすことのできるスキルを整理したことがあります。演劇教育は万能性があり、幅広くスキルアップに貢献することができます。下のような合計30のスキルの集合体となりました。

演劇教育の評価項目

特に他者と関わるコミュニケーションと、他者に伝えるプレゼンテーション、イクスプレッションが得意で、そのなかで個性やポジティブなマインドも育てていくことができます。非認知能力は正解のない、点数化できないスキルなだけに、演劇はその要素を有しています。

 

OECDの社会情動的スキルでは?

oecd 社会情動的スキル参考までにOECD提唱の社会情動的スキルはこのようになっています。用語は違いますが、これまで挙げたスキルと近しいものがあります。

 

非認知的スキルや社会情動的スキルは、社会適応型の考え方

気づいたのですが、非認知スキルや社会情動的スキルというのは、混迷を極める現代社会、AIが普及する不透明な未来の社会にうまく適応するために取り沙汰されているということです。

ここに、人間力そのものを捉えているぼくと考えにズレがあります。人間は、別に社会に適応するためにデザインされているわけではありません。根本的には地球上で生きるためです。そのために備わっている力こそが人間力であり、人間力は様々な生き方に応用できるため、社会の変化に適応するためにも重要なのです。社会ありきか、社会ありきでないかの違いですね。

幼児教育の世界で非認知スキルが注目を集めているのは、乳幼児期の教育が、その後の社会での活躍ぶりに関わるという証拠が出ているからです。そこで、ただ育児をするだけでなく、将来の社会的な適応を目標に育児をすべきだという考えになります。

非認知スキルを伸ばすことで、ある程度その後の収入に変化が出たり、健康にも差が出るということが研究でわかっています。アメリカの貧困家庭を対象とした実験結果ばかりなので、一概に比較はできないのですが、人間本来の力を伸ばせば、人生のあらゆる領域においてプラスの影響が出てくるとぼく自身も考えています。

 

なにも目新しくはない人間教育

ヘックマン博士
ジェームズ・ヘックマン教授

ヘックマン教授の提唱している、乳幼児期に非認知能力を伸ばす教育をしなさいということは、実はなにも目新しくはありません。そもそも当然のように遊びの中で、子どもたちはそれらを伸ばしてきました。しかし、一部では非認知スキル教育が特別な英才教育のように見られてしまっています。
高価な知育玩具などを使わなくても、人間本来持っている力を人間にとって自然な方法で伸ばすことは、古来からできていたことです。それがIQやテストの点数のための教育やいきすぎた英才教育のためにおかしくなってしまっただけではないでしょうか。

こうした非認知能力は、ルソーやペスタロッチやフレーベルやモンテッソーリら、歴史的な先駆者のやり方で伸ばすことができますし、自然教室や昔ながらの遊びでも伸ばすことができるでしょう。

 

非認知能力向上のための重要な点

それは、人間的であるかどうかです。社会的であるかどうかは、一旦置いておいてはいかがでしょうか。というのも、社会的適応力ばかりを考えると、人間力が偏るからです。確かに問題解決力や批判的精神は必要ですが、思考に偏りがちです。

思考だけでなく、五感や感情面も自由に伸ばしてあげるべきでしょう。OECDのスキルを見ると、感情面が「ストレス耐性」「楽観性」「感情統制」となっており、イキイキとした感情の発露は無視されており、いささか変な感じがします。また、人間はみんな違うのに、個性についての記述がないのも不思議なものです。

 

教育を見直そう

早期幼児教育の旗印として、ヘックマン教授の非認知能力論がもてはやされているのですが、別に就学前に限ったことではなく、人間的なスキルは何歳になっても伸ばすことができます。それは、ぼく自身も大人向けにインプロトレーニングを届けてきて感じることです。ですから、「錆びつかせてしまった人間力を磨いて、発揮させる」というイメージなのです。大人であっても重要視したいですね。

現状わたしたちは、あまりに正解を追いかける教育に縛られています。そこから脱却しなければなりません。そういう意味で、非認知能力が話題になるというのは意識を変えていくうえで良いことです。子どもたちに勉強ばかりさせたり、コンピューター漬けにさせたり、過保護になって家に閉じ込めたりさせないように気をつけたいものです。

自ら考え、自ら感じましょう。正解を検索するのではなく、創造的に思考しましょう。五感や感情をもっと使いましょう。将来のことばかり憂いたり、準備ばかりせずに、即興で生きていることに喜びを感じましょう。

 

まとめの一言

演劇が太古の昔からなくならないのは、人間的だからです。人間のスキル全てを注ぎ込める総合的な芸術だからこそ、非認知スキルを伸ばす教育ツールとして大活躍できると思います。非認知スキルを伸ばす有効な教育法については、あまり突出したアイディアは出ていません。GLODEAとしても、このニーズにしっかりと応えていき、演劇教育を推進していきたいと思います。