ちらほら耳にする方も多いと思いますが、STEM教育とは、Science(科学)、Technology(技術)、Engineering(工学)、Mathematics(数学)の頭文字を取ったもので、アメリカで2000年頃からプッシュされている、理数系の4領域をどんどん教育させようという動きです。
既にAI社会となっているように、この4領域はますます重要視されるのですが、この4領域にArt(芸術)を加えたSTEAM教育というものがより重要視されています。というのも、従来のように理数系の科目を学んでいるだけでは、結局知識詰め込み式で、たった一つの正解探しに生徒たちは追われ、複雑な問題を解決したり、新たな発想を生み出したりすることに繋がりづらいからです。しかも、従来の教え方では、退屈しやすく、学習テーマに対して興味や関心があまり沸かないという問題点も指摘されています。
芸術は脳のネットワークを構築し、学習を助ける
「AI時代を生きる子どものためのSTEAM教育」のなかで、著者は芸術を教える意義として下のように挙げています。
①芸術は、人間性の発展、脳内の認知的・情緒的・精神運動的な経路を増長させるのに重要な役割を演じている。
②芸術を学ぶことは、個人の一生を通して、質の高い人間的経験を提供する。
③芸術は情緒を呼び起こし、人は情緒が学修を増長し、長く持続させることを知っている。
実際に、芸術に触れた子どもたちと、触れなかった子どもたちの研究結果はたくさんありますが、文章技能や言語的記憶、数学の達成度やIQなど、いずれも芸術に触れた子どものほうが数値が高い結果となっています。 それは、芸術が、正解のない無限の可能性のものを創造する行為であり、それが脳の神経ネットワークの構築に一役買っているのが理由です。
ですから、単なるSTEM教育では駄目で、STEAM教育にすべきだという意見になっているのです。
どのように芸術を組み入れればいいのか? その難しさは?
芸術は、音楽・美術・映画・演劇・書道・写真などたくさんありますが、どのように数学や理科らの指導のなかで組み入れればいいのでしょうか? 「AI時代を生きる子どものためのSTEAM教育」では豊富な実例を挙げています。
・時間を教えるのに時計の工作。
・幾何学的形状を教えるのに、円や球、角柱、錐体などの物体を見つけて写真を撮る。
・確率を教えるのに映画を分析する。
・フィボナッチ数列を教えるのに音楽の原曲を組み立て、合唱させる。
正直、事例を読んでもよく理解できないし、こじつけ感すら感じてしまう……。本当に学びのためになっているのか、横道に逸れているだけなのか、時間の無駄になっていないか、議論を巻き起こしやすいのかもしれないですね、こうした事例を拝見すると。
裏を返すと、芸術と結びつけるための柔軟な発想力と創意工夫が求められており、いったい一教師に可能だろうかという疑問を感じるのと、芸術という専門外のものを教師たちが扱えるのかという疑問を感じます。
なかなか、理想系には辿り着かないでしょうね。アクティブラーニングと似て、理想ばかりが先走っている感もあります。
ですから、演劇であれば演劇の専門家が、音楽であれば音楽の専門家が、教科の専門家とタッグを組んで、STEAM授業を開発するということが必要になるでしょう。そういった開発はされているのでしょうか?
例えば、演劇をどのように応用するか?
例えば演劇の専門家として、ぼくがよく知る算数や理科の単元を教えるのであれば、こんな風にやるでしょう。
理科・星座の授業
1.夏の大三角形をみんなで描いてみよう!
教室の机と椅子を全て下げてスペースを空けるか、体育館や校庭を使います。
星座を見ながら、夏の大三角形(デネブ・ベガ・アルタイル)を作ってみます。星1つにつき1人配置し、星係でない人はうまく全体を見て、正しい位置に配置してもらいます。完成したら、紐を足下に置くか、校庭であれば靴で線を引いて、星座を繋いでみます。
→シアターゲーム的な手法で、チームワーク力を育成するだけでなく、星座を立体的に捉え、位置関係も掴みます。もちろん、名称も覚えられます。
[応用]北斗七星と北極星を描いてみよう
→位置関係、特にひしゃくの先の5倍の距離を作れば北極星までの距離を作れるという学びに。
[応用]星座にまつわるストーリーを考えて発表しよう
自分の好きな星座を一つ選んで、七夕伝説のようなオリジナルストーリーを考えて、発表してみる。
→想像力を膨らませて、身体と声を使ってプレゼンする練習にも。もちろん記憶の定着率は高まるし、星座に対して興味・関心が沸きます。
算数・比例と反比例の授業
2.比例と反比例をポジティブな感情、ネガティブな感情で現してみよう!
比例は一方が2倍、3倍になると、もう一方も2倍、3倍になります。現実の中でこういうことはあるでしょうか? 例えば、AさんがBさんに対して励まします。更に倍感情を込めて励まします、更に3倍。Bさんはそれに合わせて2倍、3倍と元気になってみてください。
今度は反比例をやってみましょう。AさんがBさんに対して悪口をいいます。2倍、3倍と感情を込めて悪口をいうと、Bさんの気持ちは1/2、1/3と萎んでいってしまいます。
→視覚的・体験的に、比例と反比例がわかります。感情を込めて表現する練習にもなります。ポジティブな言葉の大切さ、ネガティブな言葉の短所も理解でき、情操教育としても役に立ちます。
※悪口に抵抗がある場合は、台詞を決めて「すごいよ」「だめだよ」という風にシンプル化するといいでしょう。
という風に、演劇と組み合わせることで、多少時間は取るものの、生徒たちは飽きずに取り組めますし、なにより単なる知識の詰め込みではなく、感覚的に記憶に残ります。また、興味・関心の向上に繋がるので、学習意欲を繋がります。
実は、本屋でちょっと立ち読みしながら、アイディアを考えたのですが、こういった創意工夫のアイディアはいくらでも出てきます。自分でも、こんなに学校の学習内容とリンクして演劇を応用できるのだなぁと驚きました。是非、教育関係の方、一緒に開発しましょう!
STEM以外の科目にも積極的に芸術を組み入れるべき
英語や国語でも、演劇と組み合わせることは可能ですし、はっきりいって理数系より容易です。従って、どんな科目も演劇と連動させての授業が可能だと思います。他の映画や美術なども組み合わせれば、かなりバリエーション豊かな教育ができると期待できます。
かなり込み入った授業になるので、時間配分に対する注意も必要で、現行の学習指導要領のなかでどれだけ実現できるかわかりませんが、もっともっと増えていくといいな、と思いました。日本グローバル演劇教育協会としては、こういったSTEAM教育化や、演劇連動型授業モデルの開発に今後協力していきたいと思います。
いろいろな授業アイディアが思い浮かぶので、一度GLODEAサロンで、紹介したいと思います。その際には、教育関係者の方々も是非お越し下さい。
まとめ
STEAM教育は、こどもたちが対象に対して興味・関心を持って、実際に体験的に学べるのが大きなメリットです。教科書に書かれているものを暗記するものが平面的であるのに対して、立体的に学べます。
これは記憶に残るだけでなく、生徒たちが自主的に取り組むアクティブ・ラーニングの要素を含んでいるので、受け身にならず、能動的です。そのため、脳の使い方も異なり、創造性の領域や問題解決力の領域を活発化させていると想像できます。
従来の学習法に慣れ親しみ過ぎている教員では、こうした授業を創意工夫で開発することも難しいし、授業をファシリテートすることにも手を焼くでしょう。しかし、モデル授業をどんどんと開発し、ファシリテート能力を高めていけば、日本の教育の未来も明るいのではないでしょうか。