vol.13 ダニエル・ゴールマン「3つの共感」はインプロで育むことができる

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ダニエル・ゴールマン

ダニエル・ゴールマン「フォーカス」

daniel GolemanEQで一世を風靡したダニエル・ゴールマン(Daniel Goleman)をご存じでしょうか。彼の近著は「フォーカス(Focus)」というものです。

実は1級講座のなかでは、ゴールマンの「感情的知性(EQ, EI)」を取り上げていますが、この「フォーカス」のなかで書かれている「3つの共感」を取り上げ、演劇教育のなかのインプロがいかに機能するかを話してみたいと思います。

 

 

「3つの共感」の種類

「3つの共感」は以下のようなものです。

①「認知的共感」……他者の気持ちや思考に気づき、理解できる能力。
②「情動的共感」……他者の気持ちや思考に対して、自分の気持ちも動く能力。
③「共感的関心」……他者に対して、なにかをしてあげたいと行動化できる能力。

と説明することが出来ます。
つまり、①だけだと、他者のことは理解できるけれど、それだけの状態。②だと、そこに「かわいそうだな」「がんばってるな」と感情も伴う状態。③は、実際に「声をかけよう」「力になろう」と行動も伴う状態です。共感の3つのレベルということもできます。

3つの共感の図示

わたしたちの社会では、他人のことなんてフォーカスから外れていて、そもそも他人を理解しようとも思わない人がいます。自分と近い人や興味関心のある人以外にはフォーカスを向けないため、そういう人たちは、共感力が乏しく、他者の視点で見ることができないし、見ようともしません。そういう人たちはまず自己を認識し、理解することが必要です。自分を理解できれば、他人も理解できるようになります。ゴールマンは「得意の分野がなんであれ、自己認識ができていれば、最高の能力を発揮することができる」といっています。

ゴールマンの「フォーカス」のなかでは医者や看護師の例を挙げていますが、他者を理解する能力だけでなく、共感できる能力がなければ患者は不安になるでしょう。これと同じことが教師にもいえますし、企業の上司にもいえます。人と関わる要職に就きながら共感力に乏しいのは、大きな問題だといえるでしょう。

インプロで共感力を育てる

インプロについて簡単に説明しましょう。(GLODEAの講座で教えているインプロは、キース・ジョンストン系でもないし、シアターゲーム的なものでもありません)

インプロ実例インプロコンフリクト
お題「夢か学歴か」

子:夢を追いたい。大学には行かずミュージシャンを目指したい。ちゃんと自分一人で頑張っていく。
親:反対。世の中甘くはない。そんな賭けに出て、失敗したら後戻りをはできない。大学に行って、就職するべき。

このように設定があり、パートナー同士打ち合わせをしてから、即興で演じます。
コンフリクト・コントラスト・シンクロ・グループなど、種類があります。

・コンフリクトタイプの場合、「~したい」がぶつかりあうので、いかに自分の気持ちを相手に伝えるか、主張・説得するかの能力を鍛えることが出来ます。相手の意見を聞きつつも、自分の意見も伝えるため、認知的共感だけでなく、説明力や感情表現なども伸ばすことができます。

・コントラストタイプの場合、自分と違うキャラクターを演じることになり、自分以外の人の性格や気持ちが理解できるようになります。

・シンクロタイプの場合、相手とラポール(調和)を築くので、まさに情動的共感を育てることになります。

このように演劇教育はただ楽しいものではなく、社会で役に立つ実践的なスキルを安全な場でトレーニングすることが出来るのです。

シアター・イン・エデュケーションでは

演劇教育の総合デパートであるシアター・イン・エデュケーションの場合、インプロのように定期的なトレーニングとしてはできませんが、単発の企画として、3つの共感を伸ばすことが出来ます。

シアター・イン・エデュケーション

劇を見て、ストーリーを理解し、共感するのは①の認知的共感です。シアター・イン・エデュケーションでは、ファシリテーターが質問を投げかけるリフレクションがあり、他の参加者の思考や気持ちもシェアできます。

ドラマを通して、参加する部分があるので、②の情動的共感にまで届きます。また、活躍の部分があるので、実際に行動化する③の共感的関心までカバーできます。共感力を育てる非常に素晴らしい演劇教育であるといえます。

まとめ

インプロやシアター・イン・エデュケーションだけでなく、フォーラムシアターでも、これらの共感力を育てることが出来ます。単発企画として、シアター・イン・エデュケーションとフォーラムシアターを実施し、定期的なトレーニングとしてインプロを実践していけば、共感力の育成にかなり役立つことでしょう。

ゴールマンは「ワークアウトと同じように、何度もくりかえすほど心の筋力も鍛えられる」といっているようにこうした心に関することは、教育プログラムとして長期的な視野で考えていく必要があります。

追記:
「フォーカス」のなかでも医者のトレーニングとして演劇が使われている例を紹介していますが、実際にGLODEAの講座を受講されて、医学部の授業に応用された教授もおります。
【参考】https://www.igaku-shoin.co.jp/paper/archive/y2022/3481_03