vol.10 ドラマセラピーの先駆者と遊びの重要性

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ドラマセラピーの先駆者と遊びの重要性

ドラマセラピー(演劇療法)という言葉を聞いたことがあるでしょうか? もしかしたらアートセラピー(芸術療法)、ミュージックセラピー(音楽療法)という言葉も聞いたことがあるかもしれません。ドラマセラピーは演劇を使った心理療法です。

先駆者ピーター・スレイド

Peter Slade Child Dramaピーター・スレイド(Peter Slade, 1912-2004)が、いわゆるドラマセラピーの最初の人で、1939年からこの言葉を使い始めました。
彼の著書「Child Drama」は、ドラマセラピーという世界を広め、今でもドラマセラピストのバイブルとなっています。

彼はイギリス人です。ドイツのボン大学で経済学・哲学を学んだあと、1932年にイギリスに戻り、演劇のセラピーと教育への応用を研究しました。
ロンドンのストリートで遊ぶ子どもたちをずっと観察していると、いかに遊びを創造し、そこに没入しているかがわかり、遊びの重要性を知るようになりました。

彼は「単に賢いゾンビになるために、内なる人間を犠牲にするのは哀しい」と述べました。それは社会的に良い人間になろうとすることの弊害を示しています。

2つの遊びのタイプ

ピーター・スレイドの「Play Theory」では、観察を通して、二つのタイプの遊びが成長に欠かせないといっています。

投影遊び(Projected play)
個人遊び(Personal play)

「投影遊び」は、モノを使っての遊びで、子どもたちの集中を高めます。おままごとや人形遊びがそうですね。「個人遊び」は、全身を使っての遊びで、子どもたちの自信や技能を高めます。ヒーローごっこなどがそうですね。
この二つのタイプの遊びが子どものバランスある成長に欠かせないと述べています。

スー・ジェニングスと愛着理論

スー・ジェニングス(Sue Jennings)もう一人ドラマセラピーの先駆者で有名な人がスー・ジェニングス(Sue Jennings,1938-)です。彼女もイギリス出身で、ドラマセラピストであるだけでなく社会人類学者でもあります。彼女は子どもたちの社会的な成長に遊びがどう関与するのかを研究しました。そして、早い時期に子どもたちが遊びを体験することでその後の人生にも大きく影響を与えると知り、健康的な人間関係の構築や、レジリエンス、倫理、挑戦にも関わると述べています。

彼女は愛着理論(Attachment Theory)に基づき、新しいスタイルのドラマセラピーを構築しました。それが、ニューロ・ドラマティック・プレイです。ちなみに愛着理論は、幼児が母親(養育者)に対して抱く、泣くなどの行為を通して親密さを求める欲求のことです。

愛着理論には4つのパターンがあり、「安定型」「両極型」「無秩序型」「回避型」とあり、子育てをしている型にとっては、どれかがすぐに思い当たることでしょう。

ニューロ・ドラマティック・プレイ

ニューロ・ドラマティック・プレイ(Neuro Dramatic Play, NDP)とは、直訳すれば神経劇的遊びとなるでしょう。言葉はわかりにくいですが、事例を挙げると、イメージできるかと思います。

  • Consonant and sensory play – 誰かとふれ合う。マッサージや愛撫する行為。
  • Rhythmic play – ハミングや、歌や、手拍子。
  • Echo play – 鏡のように真似する。一緒に笑う。
  • Physical games – 転がる、持ち上げる、伸ばす。
  • Dramatic play – いないいないばぁ。かくれんぼ。
  • Stories – 物語を語る。人形遊び。劇をする。

こうした遊びのバックグラウンドで、脳の神経回路の構築や身体機能の向上、人間関係の構築、心理的安心や自信など、様々な人間的成長が行われています。NDPは特に妊娠時と出産後のお母さんのできることを示唆しています。
NDPに関しては、現在オンラインでも資格を取れるようになっています。スー・ジェニングス自身とのマンツーマンオンラインセッションもあります。この道を究めたい方にはお薦めです。

【参考】
Neuro Dramatic Play ltd https://www.ndpltd.org/

具体的なドラマセラピー

イギリスではドラマセラピストと医療機関がタッグを組んで治療に当たることがあります。ドラマセラピストは、普通に職業として成立しています。日本ではそういうケースはありません。ホスピタルクラウンはありますが、ドラマセラピストが行うものとは異なるものです。

ドラマセラピーの実践ワークショップ実際にワークショップで事例を体験したときにはこんなことをしました。
①たくさんの色のスカーフから一枚を選んで、それで遊んでみて、どんなことを感じたかシェアする。
②様々なイラストが描かれたたくさんのカードから、今の自分にピッタリくるカードを一枚選んで、なぜそのカードを選んだか、どんなことを感じたか語る。

ドラマセラピーは、即興的な遊びや演じることを通して、自分の内側の感情を解放するという狙いと、本人すら気づいていない深層心理のメッセージが外に現れるのをセラピストが気づくという狙いの二つがあると思います。

遊びや演じることもそうですし、絵を描いたり、楽器を鳴らしたり、人間がなにか夢中になって表現するとき、そこに一種の浄化作用があり、また内なる葛藤の投影が露わになるのです。ですから、保育者や幼稚園の先生らも、こうしたドラマセラピーについて勉強しておくと、とても役に立つのではないでしょうか。